チェンバロの時代とピアノの発明 in 自由学園明日館

チェンバロの時代とピアノの発明

自由学園明日館・講堂に於いて行われたレクチャー&コンサート「チェンバロの時代とピアノの発明」というコンサートに行ってきました。自由学園明日館は初めてだったが、非常に趣深いレトロな空間でした。池袋と目白の間の住宅地の中にこんな空間が広がっているとは。

概要

私はバロック音楽が好きです。オルガンも好きですが、なんといってもチェンバロの煌びやかな音色が、昔から大好物です。チェンバロはピアノの前身ともいえる楽器で、弦をハンマーで叩くのではなく、爪ではじくタイプの楽器です。よって鍵盤を叩く早さ(ベロシティ)を音の強弱として反映できないんですね。強く叩いても弱く叩いても同じ音。そのチェンバロがヨーロッパで発明され、改良を重ねられ、やがてピアノが発明されるまでの歴史を、実際に楽器を見、プロによる演奏を聴いて学ぶことができるという、素晴らしい試みでした。

楽器の解説を担当したのが、チェンバロ製作家の久保田彰氏。チェンバロ製作家などというと、いかにも職人気質の頑固オヤジが連想されるが、とても謙虚でユーモラスな人物でした。誰にでもわかりやすい解説と、たまにとばすジョークが会場を和やかな雰囲気に包みました。チェンバロの演奏を担当したのが、武久源造氏。目が不自由だからこそ、他の感覚が洗練されているようで、楽器の持つ特徴をフルに活かした、エモーショナルなプレイが印象的でした。とても楽しそうに楽器を演奏される方です。

チェンバロの歴史メモ

プサルテリウム

チェンバロが発明されるに至った原因、つまりチェンバロの前身の楽器は、11世紀〜13世紀頃に十字軍遠征によって中東からヨーロッパにもたらされた楽器、「プサルテリウム」だということを初めて知りました。上の写真は実物を携帯のカメラで撮ったものですが、鍵盤のない箱形弦楽器で、鳥の羽などで弾いて演奏します。音は、Aphex Twinの『Druqs』に出てくる、ヘンテコピアノ*1の音に近い。C.ハウマンの『心からあなたを愛す』という作品が演奏されました。どこかノスタルジックなプサルテリウムの音色がよくあう作品です。

Drukqs

Drukqs

  • アーティスト: Aphex Twin
  • 出版社/メーカー: Warp/Sire
  • 発売日: 2001/10/30
  • メディア: CD

これがヨーロッパにもたらされ、ルネサンス時代に発明されたばかりの「鍵盤」をプサルテリウムに組み込んだものが、イタリアン・ヴァージナルとよばれるチェンバロ。弦が前後方向でなく、左右方向に張ってあるのが特徴的です。それに遅れフランドル地方で発明された「フレミッシュ」と呼ばれるチェンバロは、前後方向に弦を張られています。演奏中にスイッチを切り替えて音色を変化させる機構を作ることで、表現力が向上しました。しかし、演奏中にスイッチを切り替えながら演奏することは、奏者にとっては煩わしいことだったので、二段鍵盤方式が採用されました。この二段鍵盤のフレミッシュはバロック・ロココ文化に取り入れられ、過剰ともいえるほどの美しい装飾が施されるようになりました。この二段鍵盤のフレミッシュで演奏されたJ.N.P.ロワイエの『スキタイ人の行進』では、楽器のふたを開け閉めすることで、音の強弱を表現するという手法を実際に見ることができて、おもしろかったです。スキタイ人が縦横無尽に駆け回る姿が連想されました。ドイツにも「ジャーマン」と呼ばれる様式のチェンバロが生まれたが、宗教戦争によってほとんどが破壊され、資料も残されていないそうです。

フィレンツェのメディチ家に仕えるバルトロメオ・クリストフォリという楽器職人が、チェンバロのタッチによる強弱表現を求め、弦を弾く構造から叩く構造に変えたものが、いわゆる「クリストフォリ・ピアノ」です。これが、現代のピアノの原型といえる楽器です。現在は世界に三台しかないらしいのですが、久保田氏が復元したものが来ていました。音色は、ハンマー式とはいえ、ピアノよりはチェンバロに近いです。

演奏会の感想とまとめ

プログラムの最後に演奏された、J.S.バッハの『4台のチェンバロとオーケストラのための協奏曲』は壮観でした。チェンバロ4台と弦楽四重奏による演奏。一度に4台のチェンバロを見、演奏を聴くことなど滅多にない貴重な体験です。しかもチェンバロ奏者や弦楽器奏者がみんな美人でウハウハだった。これは余談ですが*2。協奏曲なのでそれぞれの楽器にソロパートがあり、各楽器の持ち味を比較しながら聴くことができるので、それぞれの楽器の特徴がよくわかりました。

アンコールで演奏された作品も素敵でした。タイトルわからないですが。まだまだ演奏を続けようとするノリノリの武久さんを、アシスタントの方と久保田さんが宥めている姿がおもしろかった。

このように楽器の歴史や、作曲家が生きた時代のバックグラウンドを学びながら演奏を聴くと、それまでにわからなかったことがいろいろとわかってくるようで、興味深いです。単に歴史を学ぶだけでは退屈ですが、実際に音を聞きながらだと、頭というより体に入ってくる感じがします。こういうレクチャー&コンサートという形式は非常におもしろいと思うので、今後も積極的にこういうイベントに足を運びたいと思いました。

鍵盤音楽の領域vol.5 バロックの終焉

鍵盤音楽の領域vol.5 バロックの終焉

参考文献

*1:ピアノの弦のところにボルトなどを入れて変な音にしてある

*2:武久氏も非常に楽しそうに演奏していらっしゃるようでした

Related posts

ɂقuO yuO yp[eB[ECxgEtFX ɂقuO ʐ^uO ɂقuO lbguO lbgT[rX

Matsukin の紹介

向精神電子音楽研究家。
-->
カテゴリー: Event, info   パーマリンク