2009年10月31日。青山の国連大学のほど近くにある東京ウィメンズプラザにて行われた「不思議惑星キン・ザ・ザ」の上映会に行ってきました。

動機

この上映会を知ったのは、いつもフィードをチェックしている「CINRA.NET」の記事からだったのですが、この映画のことはまったく知りませんでした。

ではなんでこの上映会に行こうと思ったかというと、「キン・ザ・ザ」という言葉に聞き覚えがあったからです。ロシアンダークサイケの重鎮にKin Dza Dzaというアーティストがおり、以前から愛聴していました。なので、この映画がKin Dza Dzaと関係があることはすぐにわかり、興味がわきました。そんなわけで、この上映会に足を運んだのです。

会場は小さな視聴覚室で、見に来ていた人も数十名。学生が主体となって行われた自主上映会のようでした。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」の概要

この映画のタイトルである「キン・ザ・ザ」というのは何かというと、星雲の名前。邦題が「不思議惑星キン・ザ・ザ」となっているものの、この物語の舞台である星の名前は、キンザザ星雲にあるプリュク星となっています。

簡単なあらすじを紹介しておくと、ロシア(旧ソビエト)で普通に生活していた主人公のおじさんとバイオリン弾きが、ひょんなことから砂漠惑星プリュクにワープしてしまい、地球に帰る方法を探して冒険するというストーリー。プリュク星には二種類の人種—チャトル人とパッツ人がおり、両者とも外見は人間とほとんど変わらない。チャトル人が支配階級で、パッツ人は労働・奴隷階級と明確に線引きされており、チャトル人かパッツ人かは識別機で容易に識別できる。

で、この物語のなかで重要なアイテムとなるのが、カツェ(=マッチ)。これを多く持っている人のほうが偉いとされる。カツェで物を買ったりサービスをうけることができ、お金のような存在ともいえる。ちなみに通貨はチャトルというものが使われている。

主人公のおじさんは、愛煙家だったためにマッチをたくさん持っていた。これが幸いし、プリュク星でも影響力を持つことができたのである。マッチでうまく異星人を手なずけ、地球に帰る方法を探すのだが、なかなかうまくいかない。

中盤以降のストーリーは、正直なところ冗長的で退屈だった。だが、終盤にさしかかると一気に緊張感が増し、それまでのほんわかした雰囲気が一掃され、いきなりシリアスになっていく。プリュク星を脱出して地球に帰還するまでの急展開は目を離せないものがあり、ラストには何ともいえない脱力感と、せつなさのようなものが残る。

日本的な表現をすれば、「夢落ち」に近いんだけど、プリュク星での生活を体験していたのが「二人」であるというのがミソで、共有体験、つまり事実としてそれが残っているという点がポイントだと思った。それがラストで語られるわけなんだけど、その表現が滑稽であればあるほど、切なさが増長される。いままで見たどの映画にも、こんな表現は見たことがなく、非常に新鮮だった。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」におけるメタファー

会場で配られた小冊子にも書いてあったのだけど、この作品におけるチャトル人、パッツ人というのは、それぞれロシア人とグルジア人のメタファーであり、いくらプリュク星(ソビエト)内で力を持っているチャトル人であろうと、アルファ星(西側世界)という超えられない壁があり、その先ではプリュク的価値観は無力であるという、共産主義 vs 資本主義、あるいはソビエトの民族問題など、当時の時代背景が多数盛り込まれている点も見逃せなかった。

決定的なのは、プリュクで絶対的権力を持つ独裁者であるPJという人物が、チャトル人ではなくパッツ人であるという点。ソビエトの独裁者・スターリンはロシア人ではなくグルジア人だった。これがロシア&グルジアのメタファーでなくてなんであろうか。

南オセチア紛争に象徴されるように、ロシアとグルジアの民族紛争というのは未だに糸を引いているが、そういう根深い問題をSF映画として表現してしまう手法がすごい。

また、西側世界のメタファーのように描かれるアルファ星の人々は、まるで自分たちが神であるかのように振る舞う。こうした描写というのは、資本主義、西欧至上主義の傲慢さを露骨に表現したものといえるだろう。

「キン・ザ・ザ」のみどころ

資本を投入し、映像美や迫力だけで観客を圧倒するアメリカ的なSF映画とは一線を画し、みるからに低予算、手作り感あふれる特撮の中にも哀愁深いヒューマンドラマがある、よい意味でロシア的な作品だと思った。

ブリキのおもちゃみたいな宇宙船も楽しかったのだけど、なんといっても特筆すべき点は、プリュクの建造物。プリュクは砂漠惑星なので、基本的に居住スペースは地下に建設されている。ソビエトの地下基地で撮影したのか?と思ってしまう無骨なコンクリート打ちっ放しの空間や分厚い扉、鉄格子など、廃墟好きにはたまらない建造物が多数登場。

プリュク星人たちの意味不明なパフォーマンスやポーズもシュールな笑いを誘う。終盤でPJがいた浴室(?)のシュールな空間ぶりは、キューブリック作品に通じるものを感じた。

まとめ

座った席が悪く、前の人の頭で字幕がほとんど見えなかったこともあり、物語の全容をつかむだけで精一杯だった。DVDも発売されているようなので、もう一度じっくり見たいと思いました。ロシア(ソビエト)映画はたぶんいままで見たことがなかったのですが、意外と面白く、他の作品も見てみたくなりました。

また、ダークサイケのアーティスト Kin Dza Dzaのネーミングの元ネタもわかってすっきりしました。

<自主上映会 不思議惑星キン・ザ・ザ
ロシアでカルト的人気を誇る傑作SF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』が自主上映 -movieニュース:CINRA.NET
不思議惑星キン・ザ・ザ – Wikipedia

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